(第6回) からだづくり講座 Session5 懸垂
上半身における出力の強化:垂直方向に身体を引き上げる:懸垂
前回までの下半身からの出力で全体を動かす為の出力のエクササイズに続き、上半身から出力するエクササイズを紹介してゆきます。今回はその中でも垂直に自身を引き上げるエクササイズを紹介します。アメリカンフットボールは相手のことを押しのけたり突き飛ばしたりするスポーツのイメージが強いので引くエクササイズの重要性はあまり感じないかもしれません。しかしながら相手をタックルしたり引き下ろしたりと言った動作で引く力が必要です。さらに押す、走るヒットすると言った動作で肩甲骨と背骨はの位置を正しい位置に保ちながら出力する為には引く力は非常に重要な要素なのです。また引く力を発揮しながらも胴体はニュートラルな位置を維持する必要があります。トレーニングはしているものの上手く上半身を大きく自由に使えない時は肩関節の位置があまり良くなく、上手く出力出来ないこともあります。また、回旋を伴う動作ではそもそも肩甲骨や背骨(胸椎)の位置が上手く行っていないだけで上手に回転力を発揮することが出来ないこともあります。
一方握力は足裏と動揺出力する対象物に対して効果的に力を伝える接点です。従って引くエクササイズにおいて、しっかりと握力を発揮して自らを引き上げることは、様々なスキルで力を相手に伝える為に重要な要素です。
すなわち強いグリップ力で上半身で力を出して自らを引き上げ、背骨をニュートラルに保ち続けるポイントを鍛えるのが狙いになります。
これらの理由により自らを引き上げること懸垂のエクササイズをして強化をすることはアメリカンフットボールにおいて耐性の高い身体を作り、パワフルに相手に力を伝えることが出来る様になる為には必要不可欠であると言えます。グリップを強化し、身体を引き上げるこのエクササイズを前話までの下半身中心のエクササイズから上半身で出力するエクササイズの紹介に入るにあたり、最初に紹介したのはこの様な理由なのです。
懸垂を身につけるエクササイズ
ベンチディップス
2つのベンチの間に座り、そこから両手をベンチの上に載せて、ニュートラルな姿勢を保ちながら自分の身体を押し上げます。この時背筋が丸まってしまいがちですが、そうならない様にします。まずは腕の曲げ伸ばしよりも肩甲骨が上下する様にします。次に腕の曲げ伸ばしをふくめた動作をします。このエクササイズを通して肩甲骨を引き下ろして体重を支えることを身につけます。
肩甲骨懸垂
ベンチディップすで身につけた肩甲骨を上下して出力することを実際にバーにぶら下がっておこないます。からだの引き上げは肩甲骨の動きのみで行います(小さな動きです)。この時背骨、特に肩甲骨周辺(胸椎)が丸まらない様にします。きちんと握力を発揮する為にサムアラウンドグリップ(写真)でバーを握って行いましょう。特に下ろす時には一気に降ろさず、コントロールしながらおろしましょう。少なくとも上げる時とおなじだけの時間をかけて下ろすようにしましょう。
懸垂
肩甲骨懸垂の動きから実際にひじを曲げてからだを引き上げます。様々なテクニックがありますが、基本的には身体を丸めず、反り過ぎず、まっすぐ引き上げましょう。また、足をスイングして引き上げるやり方もありますが、まずは上体の大きな振りをせずに引き上げることから始めましょう。なにより、上半身が出力した時に背骨が大きな影響を受けずに全身を引き上げられる様にしましょう。
上げ下ろしのテンポをコントロールしておこないます。特に下ろす速度を速くしすぎると、肩に大きな負担をかけてしますので、キチンとコントロールして下ろすことを心がけましょう。
懸垂の補助
懸垂はだれでも最初から出来るわけではありません。体重の重い選手や筋力の弱い選手は自分の事を持ち上げることが出来ない選手もいますが、その場合にはまず、スイングしたりせずにパートナーについてもらい、補助してもらいましょう。
補助の方法は大きく分けて2種類あります。一つは肩甲骨のしたを支えて上半身を上に押し上げる方法、そして足をクロスしてもらい、膝を曲げて脛や足首を支える方法です。
肩甲骨の下を支える方法の時は背中が剃り過ぎないようにガイドしてあげましょう。背中を胸の方に押し出すのではなく、肩甲骨を支えて上に押し上げる感じです。
足をクロスしてもらう方の方法は懸垂をしている側がきちんと股関節を伸ばして背骨をニュートラルに保たないと補助の力が伝わりません。従ってこの方法の方が補助を受ける側に技術を要しますが、補助する側は体が小さくても補助することができます。
補助をすることは実はかなりの技術とコミュニケーションを要します。できる限り力を出し切ってもらうように補助するということは手にかかる体重の変化を感じながら力を調整しなければならないからです。
肩甲骨ディップスや肩甲骨懸垂を通じて正しく肩(肩甲骨)を動かせるようになったら、懸垂にトライしましょう。最初はあまり出来ないかもしれませんが、それは多くの場合は筋力の発揮の仕方がわからない事から来ることでもあります。まずは週3回程度の頻度で練習することから始めましょう。
懸垂が上手く出来ない人は補助をしてもらいながら5回を5セット行うところから始めてみましょう。
懸垂で自体重が8回以上、あげることができる人はあげられる最大回数を3セット行ってみましょう。最後のセットでは補助をしてもらって最後の1回を行うのも良いでしょう。
懸垂ができるようになる為にはあるていどの補助が必要なことが多いです。そして、その補助にはコミュニケーションが必要不可欠です。相手の感覚を汲み取るような補助ができるようにするということは、フットボールにおいてプレーを成立させる為にも重要な練習になります。折角フットボールの為にトレーニングするのですからこのような身体以外の部分でも向上したいものです。