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熱中症とその予防

熱中症の予防と対策
【監修】国立スポーツ科学センター センター長 川原貴

近年、日本でも30度を超える猛暑日が続く夏の環境下において、対策の必要性が叫ばれている熱中症ですが、防具を着用してプレーするアメリカンフットボールにおいては、より注意が必要です。ただし、熱中症は正しい知識と対処法を知り、実行することで防ぐことができます。ここでは熱中症に関する基本的な知識と予防、そして対処法について解説します。

熱中症に見られる4つの病型と対処法:

熱中症とは暑さによって生じる障害の総称で、以下の4つの病型があります。

1. 熱失神
皮膚血管の拡張と下肢への血液貯留のために血圧が低下し、脳血流が減少するために起こる、めまいや失神(一過性の意識消失)などの症状をきたすものです。炎天下でじっと立っていたり、立ち上がったりした時、運動後などに起こります。

 対処法:足を高くして寝かせることで症状はすぐに回復します。

2. 熱けいれん
大量に汗をかき、水、もしくは塩分の少ない水だけを補給することによって血液中の塩分濃度が低下して痛みを伴う筋痙攣(こむら返りのような状態)が起こることを指します。下肢の筋肉だけでなく、上肢や腹筋にもおこります。

対処法:生理食塩水(0.9%食塩水)など、濃い食塩水の補給や点滴などにより通常は回復します。

3. 熱疲労
発汗による脱水と皮膚血管の拡張によって循環不全がおこり、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などの症状がみられます。

対処法:スポーツドリンクなど水分と塩分を同時に補給することによって通常は回復します。しかし、嘔吐などにより水が飲めない場合には点滴などの医療処置が必要です。

4. 熱射病
体温調節が破綻し、過度に体温が上昇(40度以上)して、脳機能が異常をきたした状態です。応答が鈍い、言動がおかしいといった種々の意識障害がみられ、進行するとこん睡状態に陥ります。高体温が持続すると脳だけでなく、肝臓、腎臓、肺、心臓などの多臓器障害を併発し、死亡率が高くなります。

対処法:死の危険が迫っている緊急事態です。いかに早く体温を下げられるかが救命のポイントです。救急車を要請し、すみやかに冷却措置を開始してください。

スポーツの現場で主に問題になるのは熱疲労と熱射病です。特に熱射病は生命に関わる最も危険な状態です。この状態に陥らないように対策を十分行うことはもちろんですが、起こってしまった場合にはすみやかに病院に搬送すると同時に、体温を下げるための冷却処置を行ってください。

熱中症が発症した時の対処方法:

熱中症を疑う症状が発生した場合には、まず重症な病型である熱射病かどうかを判断する必要があります。

体温が異常に高い(40度以上)、意識障害がある、応答が鈍い、言動がおかしいなどの症状が少しでもあれば、すぐに救急車を要請して、涼しいところに運んで身体冷却を行ってください。

意識が正常な場合は、涼しい場所に移動し、防具や衣服を脱がして寝かせ、スポーツドリンクなどで水分と塩分の両方を補給させます。うちわなどで扇ぐのもよいでしょう。嘔吐、吐き気があり、水分が補給できない場合は、医療機関に搬送して点滴などの治療が必要です。

このような対処をしても症状が改善しない場合は、医療機関に搬送します。症状が改善した場合でも少なくとも翌日までは経過観察が必要です。

熱中症対処のプログレッション:

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日本体育協会『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック』から転載

 

身体冷却のポイント

全身冷却をするために最も効果的なのは氷水にひたすことです。子供用のプールなどを準備しておくとすみやかに対処できるでしょう。こうした準備がない場合には、水をかけたり、濡れタオルを当てたりして、扇風機などで強力に扇ぐ方法が推奨されます。タオルをいくつか準備し、氷水につけて冷やしたものを交互に使う、氷やアイスパックなどを首、脇の下、足の付根など太い血管に当てて冷やすのも効果的です。

熱中症予防5カ条:

1. 暑い時、無理な運動は事故のもと
熱中症は気温が高いときほど、同じ気温でも湿度が高い時ほど発生の危険が高くなります。また、運動強度が高いほど熱の産生が多くなり危険性が高まります。環境に応じて運動強度を調節し、適宜休息をとり、適切な水分補給を心がけましょう。

2. 急な暑さに要注意
熱中症事故は、急に暑くなった時に多く発生しています。夏のはじめや合宿の初日、あるいは夏以外でも急に気温が高くなったような場合には熱中症が起こりやすくなります。急に暑くなったら、数日間は暑さになれるために運動強度を抑え、徐々に運動強度や運動量を増やしていくようにしましょう。

3. 失われる水と塩分を取り戻そう
暑い時にはこまめに水分を補給しましょう。汗からは水分と同時に塩分も失われます。スポーツドリンクなどを利用して、0.1〜0.2%程度の塩分を補給することをお勧めします。運動による体重減少が全体重の2%を超えないように水分補給を心がけます。運動前後に体重を測ると、失われた水分量を把握することができます。運動前後、毎朝起床時に体重を測る週間を身につけ、体調管理に役立てることをお勧めします。

4. 薄着スタイルでさわやかに
皮膚からの熱の出入りには衣服が関係しています。暑い時には軽装にし、吸湿性や通気性に優れた素材のものを着用しましょう。アメリカンフットボールの場合、休憩中に防具を脱いだり、衣服をゆるめたりして、できるだけ熱を逃がす工夫をしてください。

5. 体調不良は事故のもと
体調が悪いと体温調節機能も低下し、熱中症の発生につながります。疲労、睡眠不足、発熱、かぜ、下痢など、体調の悪い時には無理に運動をしないことです。また、体力の未熟な下級生、肥満や暑さに慣れていない人、熱中症を起こしたことがある人などは特に注意が必要です。学校で起きた熱中症の死亡事故の7割は肥満の人に起きています。体の大きなラインの選手などは特に注意しなければなりません。

熱中症予防のための運動指針:

WBGTとは?

熱中症予防の温度指標としてWBGT(Wet-Bulb Globe Temperature)が用いられます。暑さと寒さは気温だけでなく、湿度、輻射熱、気流が関係します。WBGTは気温(乾球温度)、湿度(湿球温度)と輻射熱(黒球温度)の三要素から算出されます。湿球温度と黒球温度は気流の影響も反映されるので、暑さを構成する4要素をすべて取り入れた指標になります。

WBGTの測定

WBGTは乾湿温度計と黒球温度計(15センチの銅球)から、乾球温度、湿球温度、黒球温度を測定し、以下の式に当てはめて算出します。(野外で日射のある場合)

WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度

最近では、簡単にWBGTを測定できる測定器がありますので、チームとして準備しておくことをお勧めします。

熱中症予防運動指針

熱中症予防5カ条のポイントを理解した上で、環境温度に応じてどの程度の運動強度にすべきかの目安を示したものが、熱中症予防運動指標です。環境温度の指標はWBGTで評価していますが、実際にはWBGTを測定できない環境もあるため、およそ対応する湿球温度、乾球温度も示されています。

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日本体育協会『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドライン』より転載